うめざわしゅん『パンティストッキングのような空の下』、伊坂光太郎『砂漠』
身も蓋もないような、考えさせられるような。そんな作品です。
特に「唯一者たち」の最後の方のやりとりが印象に残っています。
高校生の時に幼女に暴行未遂を起こし、10年越しにその幼女に謝ろうとしたものの、「絶対に許さない」という返事をされた主人公(洋一)が吐く台詞が以下のとおり。
苦しい…苦しい…
でもコレは…
あの子の苦しみとは関係なくて…
自分がそんなことをした人間で…この先もそうだってことが…苦しい
こうやって結局自分の苦しみしか苦しめないことが苦しい…
ずっと…ずっと…
なんで俺はこんななのか…なんで俺だけが…
なんで…
なんで俺は…生まれてきたのか…
それに対する、謝るよう働きかけたルイという女の子の返事が以下。
私は生きてるのがすごく楽しい
冬は寒いけどたくさん服を選んで着れるし 近くにできたケーキ屋は大当たりだし もうすぐハンターハンター連載再開するし…川上さん(※ルイの恋人)は超優しいし…
将来は結婚して子供は二人で犬も飼って…
って欲張りすぎ?そんなうまくいかないよね!
でも そうねーあとはあんまり痛くなく死ねればいいかなァ
とにかく!私の人生超すばらしいよ!
でも…
生まれてこないで済んだなら それが一番良かったな
誰だってそうじゃない?みんな自分だけが自分なんだから
「私」という業を人間は生まれながらに背負っているのだということがよく分かります。でも分かったところでどうするのでしょう。よく分かりません。
高校の後輩に薦められて読みました。
一言でまとめるのであれば、大学生5人が砂漠に足を踏み出す前の青春を描いた作品です。その5人の中でも、西嶋くんが群を抜いて面白い。
そうやって距離を空けて、自分たちさえ良ければいいや、そこそこ普通の人生を、なんてね、そんな生き方が良いわけないでしょうに。ニーチェも言ってたじゃないですか。『死にもの狂いの剣士と、満足した豚からも等距離に離れていたところで、そんなのはただの凡庸じゃねえか』ってね
『人間とは、自分と関係のない不幸な出来事に、くよくよすることだ!』
あのね、目の前の人間を救えない人が、もっとでかいことで助けられるわけないじゃないですか。歴史なんて糞食らえですよ。目の前の危機を救えばいいじゃないですか。今、目の前で泣いてる人を救えない人間がね、明日、世界を救えるわけがないんですよ
前半の百数十頁だけでこの調子です。これが面白くないわけがない。
とはいえ、西嶋くんだけではなく、他の4人もそれぞれ時が過ぎる中で変わっていくので、そちらもまた興味深いです。
私はもう砂漠にずぶずぶ嵌っていますが、ちったあもがいてやろうかなという気持ちになれました。
あ、ちなみに今回のテーマは「パンク」です。「これが現実だよ」とかしたり顔で言う大人になってはいけません。現実を殴っていきましょう。
蛍光灯
はて、蛍光灯が妙にチカチカするような。
そう思うのに入居から然程の歳月を必要としなかった。
しかし、実際に対処するには大いなる年月を必要とした。具体的には9ヶ月ほどである。
これで忙しかったのであれば格好はつく。だが、まったく忙しくはなかった。何せ、私は知己から「お前にはついていけない、時間的な意味で」と揶揄されたことのある人間だ。
要は億劫だったのである。
いや、少し弁解させてもらえば、何もしていなかったわけではない。
さすがに蛍光灯を変えるくらいはした。というかそれで解決するだろうと思っていた。
だがしかし、事はそう簡単ではなかった。蛍光灯を交換して暫くは改善したように感じたのだが、気づいたらまた元の状態に戻ってしまったのである。
さて、この時の私の心中は如何許りか。
どっこらせと重い腰をあげ、新しい蛍光灯を買い、古い蛍光灯を取り外し、新しい蛍光灯を取り付け、古い蛍光灯をゴミに出した。そのような重労働をこなし、達成感に満ち溢れていた。にもかかわらず、その天下は百日どころか数日も保たずに崩れ去った。ナポレオンもびっくりである。
そう申し上げれば分かっていただけるだろうか。
挫折した時の反応には二通りある。
何糞と立ち上がるか、もういいかと諦めるか。
私の場合は後者だった。
かのドストエフスキーが喝破したように、人間は慣れる動物なのだから、きっと大丈夫だろう、と。
しかし、悲しいかな、点滅にはいつまで経っても慣れることはなかった。
というか、点滅が規則的ではないため、慣れようにも慣れられなかった。そういうことにしておく。ドストエフスキー先生が間違えるわけはないのだから。
事ここに至って、年末が近づくにつれ、ぎっくり腰になった人がそーっと立ち上がるがごとく、徐々に徐々に「やってやるかあ」という気持ちになってきた。
とか言いながら年は越してしまうのだが、新年になったおかげで昨年とは違う自分になろうという意欲も高まった。
そうして漸く閾値を超え、私は管理会社に電話することにした。
電話のやりとりについては割愛する。ただ一言申し上げるのであれば、私はコミュニケーションというものがあまり得意ではない。
とはいえ日本語のスピーキング能力は一般人並みにはあるので、どうにかこちらの意(蛍光灯を交換したにもかかわらず明滅が治らない)を相手に理解させることはできた。現場の方が外に出ているので日程を調整するとのことだった。
さああとは向こうにお任せだ、と思っていたら、折り返しの電話での返答は意外なものだった。
なんと、照明器具で交換すべきは、蛍光灯だけではなくグローなるものもあるという。蛍光灯の横についているはずだから、そちらを交換せよとの指示が来た。
なんだそれはと混乱し、その勢いで憤りかけたのも束の間、工事の方々との応対がなくなったと思ったら落ち着いた。
蛍光灯を交換できた私の手にかかればグローを換えるのも造作もあるまい。
そう思い、承知した旨を伝えて電話を切った。
さて、じゃあ交換するかと思ったものの、ネットで調べたところグローにも様々な型があるらしい。
実際のグローにその種類が書いてあるとのことだったので、見ることにした。
ところが、ここで大いに焦ることになる。
なんとグローがないのだ。
ネットで見ると、蛍光灯の傍についている小さい円柱状のものがグローとのことだったが、私の視力1.0を誇る曇りなき眼で見る限り、小丸電球というかナツメ球というか、無精紐を何回か引っ張ると点くちっこいランプしかないのである。
動かざること山の如しとどこかで誰かが言っているかもしれない私の精神もこの事態には動揺した。
ただ、もう一度電話することを考えると、それはそれは気が重かった。
どうする。どうしよう。どうしたものか。
一通り逡巡し、悩みに悩み抜いた。一度は携帯電話に手がいきかけた。
しかし、もし万が一私に見落としがあったら申し訳なさやら何やらで一晩悶えることになりそうだと思い、徹底的に検証することにした。
すると、なんと、なんとなんと、ナントの勅令、南斗の拳、あったのである。我が家の照明器具には蛍光灯を取り付ける部分と、それを天井を結ぶ部分があるのだが、後者の器具の側面にグローがあったのだ。なんでこんな死角にあるねん。
こうして今回はこと無きを得た。
といいつつそのあとも、温度計が零下を示す中グローを買いに行ったら最初の電気屋で6個買いたいのに5個しか在庫がなかったとか、そのせいで泣く泣くもう一店まで足を運んだら「いまお守りを配っているんですが、ご家族は何名ですか?」と聞かれて勝手に傷ついたりだとか、色々あったのだが、まあ、要するに、最後まで諦めずに見直すことが大事である。
センター試験に挑んでいる方々に伝えたい。
火のない暮らし
我が家にはコンロがありません。
そう申し上げると「自炊できないだろう」とおっしゃる方も多くいらっしゃいますが、意外と電気の力で何とかなるものです。
というとIHかと思われそうですが、我が家で使っているのはホットプレートです。
象印 土鍋風なべ&すき焼きなべ&溝つき焼肉プレート グリルなべ EP-PW30-TA
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ホットプレートとは言っても鍋もできる優れものです。ただ一人鍋の際にいつもの調子で作ると後悔します(経験談)。
こちらで今まで数多の料理に挑戦してきました。カレー、ハンバーグ、餃子、角煮、親子丼、炒飯。時には成功し、時には失敗しました。
ただ、この前異例の事態が発生しました。炒め物をしようとしたら世界が闇に染まったのです。まさか、お湯を沸かしながらホットプレートを使うだけでブレーカーが落ちるとは。
折悪しく夜だったので漆黒と呼ぶにふさわしい様相でした。火がなく電気も奪われると世界はこんなに暗いのですね。原始の人々はこんな世界に暮らしていたのでしょうか。
実際には太古に思いを馳せる余裕もなく、必死で懐中電灯を探すこととなりました。途中でiPhoneのライト機能に思い至り、事無きを得ました。
技術の力は素晴らしい。
雪
ふと外を見たら雪が降っていました。
私は雪にあまり良い思い出はありません。
子供の頃、雪だるまやかまくらを作ったり、雪合戦をして友人たちと天下を競ったりしたのは良い思い出といえば良い思い出ですが、しかしその美化された過去を台無しにする痛烈な記憶があるのです。
それは、コンクリートの床に頭をぶつけたことです。
雪と何の関係があるのかと思われるかもしれませんが、幼き私は雪を信じたばかりに痛い目にあうこととなりました。
その日は雪が数cm積もっていました。その上を歩けばサクサクと気持ちの良い音がします。柔らかく足を受け止めてくれるその雪は、まるで体育館のマットのよう。
そんな連想をしてしまったがために、幼き私はとんでもないことを思いつきます。そう、この雪ならば、私だって受け止めてくれるだろう、と。
その結果は先述のとおりです。目から火花が飛ぶようでした。あれ以来雪に対する私の信用度はガタ落ちです。銀世界を純粋な目で見られなくなりました。
大人になってからも雪のために冷や汗をかいたことがあります。
その日は数年ぶりの大雪でした。そうなると、都会の誇る鉄道網もひとたまりもありません。
ただ、私はそのとき、満員電車を避けるがためにかなり早く出勤しておりました。
つまり、いつもよりは遅れたものの、定時には間に合うくらいに席につけてしまったのです。
当然、周りの方々は誰もいません。ついでに、他の課も人手不足です。その結果、私が一人で残されることとなりました。なお、当時の私の業務は窓口がメインです。あの時ほど心細い思いをしたことはありません。
何も問題が起きなかったのは不幸中の幸いでした(お客さんも殆ど来なかった)が、孤独の恐ろしさが身に沁みました。仕事はチーム戦です。
まあ、家で一人でこもっている分には何も困らないので、大人しくしていようと思います。
北方謙三『水滸伝』、森博嗣『すべてがFになる』
埋没するのは容易く脱出するのは難しい。
それがシリーズ物である。まるで麻薬のようだ。
2017年は手を広げようと思っていたが、年末から2つのシリーズ物に迂闊にも手を出してしまったせいで、そちらの片が付くまで他に取りかかれそうにない。
一つ目は、北方水滸伝である。高校生か大学生のときに一度通読したものの、また読みたくなって手を出してしまった。たぶんモヤモヤしたものを吹っ飛ばしたくなり、こういう熱い物語を読みたくなったのだろう。年末は何かと過去を振り返ってしまうから。
19巻と長くはあるが、1巻1巻はさほど重くないので、するする読める。そこがまた憎い。手が止まらないのだ。
おまえがまずやることは、旅をしながら体力を回復することだ。それから、心の傷を内側に閉じこめておけるようになることだ。冷たい言い方かもしれぬが。
(魯智深が奥方を亡くした林冲に放った台詞である。あるいは悲しみ一般に当てはまることかもしれない。)
二つ目は森博嗣のS&Mシリーズである。こちらは『喜嶋先生の静かな世界』を読んで、また森博嗣の作品を読みたくなったというのが籠絡されたきっかけである。北方水滸伝とは異なり熱い物語ではないけれど、どこか純粋であるという点では似ている。
こちらは10巻だが、北方水滸伝より1巻1巻が重いので、なんだかんだ同じくらいのタイミングで読了しそうな予感がしている。
意味のないジョークが、最高なんだ。
この犀川先生の思想には大いに共感するところがある。ジョークたるもの空虚であるべし。
よくよく考えると、こちらが2017年最初の記事だった。今年もよろしくお願いします。
2017年の目標
2017年になりました。
今年は転居を伴う異動はないと信じておりますので、昨年より自己陶冶に時間がかけられるはずです。そんなことを言ってフラグになってしまわなければよいのですが。
そんなわけで、2017年の目標その1は、
・「社労士合格」
です。昨年は辛うじて異動でバタバタしていたという言い訳が立った(?)ものの、今年は言い逃れできません。崖っぷちです。まずは申し込みを忘れないところから。4月……でしたっけ?(不穏)
目標その2は、2016年は孤独だ孤独だと言い募るばかりで余りにも内向きだったので、
・「知人を1人増やす」
です。最初は5人にしようかと思いましたが、3ヶ月に1人以上のペースで知人が増えることを想像できませんでした←
無論1と5の間には2、3、4という自然数が存在しますが、2016年、散々己と向き合ってきて、最早己のスペシャリストと言っても過言ではない私が考えに考えた結果、1人が妥当だという結論が弾き出されました。間違いありません。
目標その3は、昨年は母校のOB合宿の時以外全く将棋に触れられなかったので、
・「将棋倶楽部24のレーティングを1900にする」
です。以前は2000あったこともありましたが、今は1750ですので、1900くらいが適度な難易度の目標かと。ウォーズは3切れと10秒では四段を達成していたので、気が向いたら10分でも四段を達成できればいいですね。あと自分が持っている金子タカシ『◯◯の手筋200』シリーズを一周するのも密かな目標としておきます。
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目標その4は、昨年はボチボチ読書できましたので今年も引き続き頑張りたいということで、
・「1年に12冊、漫画以外の書籍を通読する」
です。漫画は呼吸するのと同じくらい自然に読んでいるので、漫画以外の書物を1ヶ月に1冊のペースで通読できればと。敢えて「通読」としているのはつまみ食いで満足してしまう(放置してしまう)ことが多々あるからです(それがダメというわけではありませんが)。漫画は何冊という目標はありませんが、今までは読んでそのまま放ったらかしで気付いたら内容を忘れていることが多かったので、読んだら読みっぱなしという現状から脱せるように頑張ります。
目標その5は、2017年は素数の年ということなので、
・「芹沢正三『素数入門』を一周する」
です。ずっと積ん読になっていたので、これを機会に消化したい。ついでに他の気になっている素数関連図書にも手を出せると嬉しいです。
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以上、仕事(資格)、人間関係、趣味(将棋、読書)でそれぞれ2017年の具体的な目標を立ててみました。そこそこ頑張れば全て達成できそうですが(知人を1人増やすのは巡り合わせもありますが)、 果たして。
なお、抽象的な目標は「家族、旧友(先輩後輩含む)を大事にする」「他人と自分を比較しないようにし、自分に自信を持ち、他人を尊重する」「整理整頓する」「健康を維持する」「生活能力を高める」「世間に興味を持つ」「知的にも肉体的にもマッチョになる」など数限りなくありますが、あまり2017年特有の目標ではありませんので、ノートか何かに羅列しておいて日々気をつけることとします。
それでは今年もよろしくお願いいたします。
今年を振り返って
気づけばもう年末です。
今年も悔いの多い一年でした。
「後悔しないように」とは巷でよく聞く台詞ですが、そんなことは少なくとも私には不可能です。
選択肢が一つしかないことなんてありません。
選べる選択肢が一つとも限りません。
他の選択肢があったのではないか。
何か他にもできることがあったのではないか。
そう思わないことはありません。
しかし、そう思ったとしても、その思いを背負って生きていくほかありません。
後悔を少しでも小さくする努力を欠かさぬと共に、後悔してなお前を向ける強さを手に入れたいものです。
それはさておき、過去から教訓を得ることも大事なことです。
ですので、いささか早いですが、四半期ごとに今年を振り返ります。
まず1〜3月で最も大きな出来事は「引っ越した3日後に異動を告げられた」ということ以外にないでしょう。
「どうしてこうなった」という思いは今でも拭えませんが、こうして落ち着いてみると「気持ちを切り替える」という意味ではよかったと思えます。
話のネタにもなりましたしね。この話をして笑わない方はいない。「他人の不幸は蜜の味とはこのことか」と感心した次第です。
次の4〜6月のクライマックスは「異動早々に最終退庁者になった」ということでしょう。
田舎なので深夜に帰ると星空が綺麗だったことをよく覚えています。
いかに荒んでも自然の美しさに感動できるうちは大丈夫だと思えました。
そして7〜9月は「夏休みを利用して福井・香川の友人に会いに行った」ということが(支出的にも)最大のイベントでした。
一人旅なるものを初めてしましたところ、慮外に気に入りましたので、また行きたいものです。
友人とも再会を誓えたので、また暇ができたら出かけよう。
最後に10〜12月は「自転車で派手に転んだ」ということが(肉体的にも)一番インパクトがあった事件でした。
己の弱さを再確認するとともに、医療現場を見て少しだけ熱意をいただきました。
すぐに変われるわけはないでしょうけれど、一歩ずつ進んでいきたいものです。
ハイライト方式で振り返ると、今年は大変だったことが4分の3を占めております。
頭のねじが一本外れているのか、いつまでたっても油断大敵ということを覚えませんので、ハプニングが尽きません。
とはいえ、周りの方々に助けていただきながら、どうにかこうにか延命しています。
きっと来年もそんな感じでサバイブしていくのでしょう。
せめて少しでも恩を返せるよう、精進を重ねていく所存です。