雑記

雑な記録。略して雑記。

サイモン=シン『フェルマーの最終定理』

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

いわずとしれた名作である。なんせこの商品を含むブログが584件ときた。私は中高生の頃に一度読んだが、内容をきれいさっぱり失念していたので先日読み直した。


この本が凄いのは、実際の数学的内容はよく分からなくてもフェルマーの最終定理が如何に重要かがひしひしと伝わってくることである。囲碁が分からなくても面白い『ヒカルの碁』に似ているかもしれない。フェルマーの最終定理に関連する数学とその数学に関わってきた人物のエピソードが平易かつ劇的に描かれ、ページを捲る手が止まらない。数学者というと論理の権化のようなイメージがあるが、ガロアをはじめ皆さん理性的とは言い難い行動もとっており、急に数学者が身近に感じられる。話題も広範で、この一冊を読むだけで、ピタゴラスからワイルズまで(偏りがあるとはいえ)何となく数学の歴史が分かるという優れものだ。


それにしてもワイルズが一度証明を終えたと思ったら欠陥が見つかり、その欠陥を一年がかりでついに直す様などまるで作ったようなストーリーである。「事実は小説より奇なり」という使い古された言い回しがあるが、これほどあてはまるケースは中々なかろう。絶望の崖っぷちに立たされ、もう諦めてせめて何が悪かったのか探ろうとしていた時に、数年前に捨て去った岩澤理論と欠陥の見つかったコリヴァギン=フラッハ法が結びつくなんて、そんなん泣くやろ。


何の捻りもない表現だが、さすがベストセラーになるだけはあった一作だった。意気消沈した時にまた読みたい。