雑記

雑な記録。略して雑記。

あせってはいけません

先日はえらそうな(しかし実は盛大なブーメランである)ことを言ってしまったので、今日は本当にえらい先生の文章を引用しておこう。


まずは8月21日の久米正雄芥川龍之介宛の夏目金之助の手紙から。

 勉強をしますか。何か書きますか。君方は新時代の作家になるつもりでしょう。僕もそのつもりであなた方の将来を見ています。どうぞ偉くなって下さい。しかしむやみにあせってはいけません。ただ牛のように図々しく進んで行くのが大事です。文壇にもっと心持の好い愉快な空気を輸入してやりたいと思います。それからむやみにカタカナに平伏する癖をやめさせてやりたいと思います。これは両君とも御同感だろうと思います。

そして8月24日の手紙に続く。

 牛になる事はどうしても必要です。われわれはとかく馬になりたがるが、牛にはなかなかなり切れないです。僕のような老獪なものでも、ただいま牛と馬とつがって孕める事ある相の子位な程度のものです。
 あせっては不可せん。頭を悪くしては不可せん。根気ずくでお出でなさい。世の中は根気の前に頭を下げる事を知っていますが、火花の前には一瞬の記憶しか与えてくれません。うんうん死ぬまで押すのです。それだけです。決して相手を拵えてそれを押しちゃ不可せん。相手はいくらでも後から後からと出て来ます。そうしてわれわれを悩ませます。牛は超然として押して行くのです。何を押すかと聞くなら申します。人間を押すのです。文士を押すのではありません。

漱石書簡集 (岩波文庫)

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神様のカルテ3』で栗原先生が頻繁に引用しているので、ご存知の方も多いであろう。

神様のカルテ (3) (小学館文庫)

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そろそろ上の手紙が書かれた8月が近づき、1年も後半戦となりつつある。ついでに社労士の試験の日も迫っている。とかく焦りがちな今日この頃だけれども、こちらの文言を思い出して頑張りたいものだ。(そんなことを書いている暇があったら勉強しろというそんな野暮な突っ込みは受け付けない。)