学問には王道しかない
「(前略)いいか、覚えておくといい。学問には王道しかない」
(中略)
この王道が意味するところは、歩くのが易しい近道ではなく、勇者が歩くべき清く正しい本道のことだ。
(中略)
どちらへ進むべきか迷ったときには、いつも「どちらが王道か」と僕は考えた。それはおおむね、歩くのが難しい方、抵抗が強い方、厳しく辛い道の方だった。困難な方を選んでおけば、絶対に後悔することはない、ということを喜嶋先生は教えてくれたのだ。
現状に不満を零したくなるとき、私はいつもこのシーンを思い出す。
不平を言うのは楽だ。全てを周りのせいにすることだから。
「組織が悪い」「制度が悪い」
確かにそうかもしれない。でも、この台詞は酒席での愚痴くらいが相応しい。
私は学問の道からは外れてしまったけれど、それでもこの王道という考え方は学問以外でも心に留めておくべきことだと思う。
私は王道を歩んでいるか。
迷ったらこの問いを思い出したい。
喜嶋先生の静かな世界 The Silent World of Dr.Kishima (講談社文庫)
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石川雅之『もやしもん』、重松清『疾走』
もやしもん コミック 全13巻完結セット (イブニングKC)
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続き物を読み返すのは北方水滸伝とS&Mシリーズだけで収まるだろうと思っていたら、第三弾のもやしもんが出てきました。
最初に読んだ時、私は大学生でした。その時は詰め込まれている情報量の多さに驚いた記憶があります。樹教授の長台詞も凄いが、絵が細部まで描き込まれており、図解も作者がどれほど勉強し、読者に分かりやすく伝えようとしたかがひしひしと感じられます。些かボリュームが壮大すぎて消化不良ではありましたが、作者の力量にただただ感心しました。
一方、社会人になった現在では、むしろ沢木たちの毎日がお祭りのような大学生活に郷愁とも嫉妬ともつかぬ気持ちを覚えます。以前に引用しました『結物語』の阿良々木の台詞を忘れたわけではありませんが、それでも授業をサボろうと友人と前後不覚に陥るまで飲み明かそうと徹夜で勉強しようと何をしても許されたあの時代はもう帰ってきません。原則平日は出勤し、酒もほどほど、勉強するにせよ仕事に影響を出しては労働者失格です。自由でないとは言いません。むしろ己の意思でコントロールする事柄は歳を重ねるにつれ増えており、大学生の頃のほうが振り回されることは多かったです。でも得るものもあれば失うものもある。当たり前ですが、読みながらそうしたことを強く感じました。
とはいえ、まだまだヒヨっ子なので、沢木から独立しようとした蛍のように、父親と日本酒と真剣に向かい合った円のように、七転八倒しながらごちゃごちゃ考えたり行動したりしていきたいものです。
アリャ ワシから見りゃ 60にもなっとらん ただの小僧よ
30どころか 40になっても 一緒だぞ
こんなオヤジでも 上からは ガキ扱いだよ
お前ら位の歳なら 子供ぶる事も 出来るが オッサンは 逃げ場無しだよ
一生を駆け抜けた少年の人生を二人称で語った話です。
なぜ二人称なのか。それは最後まで読むと分かります。
最後は綺麗にまとめられていますが、振り返ると悲惨としか言いようがありません。しかし、悲惨を極める中でも、少年は救いを見出そうとします。どれだけ酷い目にあっても、にんげんを信じようとします。絶望せず、葛藤します。からから、からっぽになってしまえば、にんげんを、言葉を、何もかもを信じず、ただただ絶望していれば、きっと楽でしょう。しかし、少年は最後まで放り出しませんでした。
とある人に「私のバイブル」と紹介されて読みましたが、確かにその呼称にふさわしい一作でした。
誰か一緒に生きてください
「イミテーション・ゲーム」
映画は暫く御免だと以前に申し上げたが、音と光が激しくなければ大丈夫であるはずだと信じ、「イミテーション・ゲーム」を観た。信じる者は救われるとの格言どおり、今回はそれほど頭痛に襲われることもなく視聴できた。
ぱっと思いつくこの作品のテーマは3つあり、天才、戦争、同性愛である。そしてそのいずれもが主人公アラン・チューリングを孤独に追いやっていく。輝かしい才能は周囲の無理解に晒され、より多くの命を救うためとはいえ、数多の無辜の命を見殺しにすることを余儀なくされ、本来自由であるはずの性的嗜好により法で裁かれた。その様子が過去と未来を行き来しながら描かれていく。チューリング自身は常に救いを求めているにもかかわらず、どうにもならない。確かに、チューリングは偉業を成し遂げた。同性愛も死後恩赦され、その学問的、社会的功績は誰もが認めるところとなった。しかし、全ては終わった後のことである。
ところで、振り返ってみて気になるのはチューリングの家族についてである。映画ではチューリングはずっと天涯孤独であり、家族は一切出てこない。伝記を読んだらそのあたりのことも分かるのだろうか。
笑顔
- 作者: 石川雅之
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暇に任せて迷走に迷走を重ねているうちに残業の嵐に呑まれ今度は頽廃を極めつつありますが、過去という地から足を離してしまわないよう、昔読んだ漫画やら本やらを少しずつ読み直しております。
その中の1冊(というか1シリーズ)が『もやしもん』。ユルユルダラダラというのは私の性格によく合います。
寝る前にチマチマ読んだり、休みの日にゴロゴロしながら眺めたりしているうちに、漸く2桁巻に到達しました。
10巻はアメリカ編。異質の文化に触れることで、イブニング誌上最も影の薄い主人公こと沢木直保も、己と向き合う様を描かれることとなります。
そんな直保に、室町時代から続く家を出奔しアメリカで放浪している自由人の兄直継の吐く台詞が、私には印象的でした。
お前は昔から友達の輪でも一歩引いて立ってたよなァ
どっか冷めてて腹から笑ってるように見えなかった
笑顔だよ直保
笑えば楽しいぞ?
おー直保ー
笑ってるかー
オレは笑顔だぞー
分かるか直保ー
アメリカでも日本でもどこでもいいんだぞ
お前のいる処がお前の世界の中心なんだ!
お前が回すんだぞー
いい仲間いっぱいいんじゃねェか
人のはじっこに乗っけてもらって回ってんなよ?
俺はどこにいても何やってても
沢木直継だぜ
時に不満や自己嫌悪の波にさらわれそうになりますが、呵々と笑って他人に感謝しながら己が道を貫いていきたいものです。
佐藤優『人に強くなる極意』、森博嗣『夢の叶え方を知っていますか?』
どうにもこうにも調子が出ない。
そういうこともあります。
そんな時、生活リズムを整えるとか栄養バランスの良い食事を摂るとかそういった正攻法もあります。が、たまには奇をてらって新書、しかもハウツー本を読むという気分転換を図るのもありかなと。
というわけで、今回はたまたま家にあった新書と本屋で目についたハウツー本新書をご紹介します。
8つの「ない」から人に強くなろうという本です。
怒らない、びびらない、飾らない、侮らない、断らない、お金に振り回されない、あきらめない、先送りしない。
当然と言えば当然のことが書いてありますが、不調というのは当然のことができなくなることを言いますので、そういった意味では良いチョイスでした。
内容は題名のとおり、夢の叶え方について。
これまた当たり前と言えば当たり前なのですが、夢というのは自分のものであって、そこに他人を介入させては他人の夢になってしまいます。
そういうことをよくよく分からせてくれるので、他人に流されやすい方が読むといいかもしれません。
体力
- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
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人につき合わない。食事は自分のペース。毎日決まった時間に寝て、決まった時間に起きる。どんなことがあっても、無理はしない。それが、僕の肉体の使い方なのである。
森博嗣氏は30年以上この肉体の使い方を守り続けているという。
体力がないということを自覚しているが故に、管理を徹底する。
言われてみれば当たり前だけれど、私はどうにも己の修行不足を棚に上げているように思えて実践してこなかったが、事ここに至って漸く努力の問題ではない(努力するにしても割りに合わない)と思えてきた。
これまた当たり前だが、人はそれぞれ違う。その人の素質というものがある。どんなに不規則な生活をしても平気の平左である人もいれば、少し無理をしただけで音をあげる人もいる。
といっても、素質だけで全てが決まるわけではない。幼い頃ずっと病弱だった方が、少しずつ訓練し、今では徹夜で実験したりマラソン大会に参加したりする、なんていう話を聞いたこともある。なので、改善は不可能というわけではないのだろう。
だが、それでも改善するには多大な労力を必要とする。しかも改善は確約されていない。やはりどうにもならなかったということで終わる恐れもある。そう考えると、森博嗣氏の肉体の使い方を見習うのが最善に思える。
ただ、自分は大いに他人に流されやすい。ついダラダラと他人に付き合ってしまう向きがある。出された食事は多少無理をしても食べてしまう。
しかし、これは己の意思次第でどうとでもなる。やるしかない、と己に言い聞かせることとする。