雑記

雑な記録。略して雑記。

求職者支援制度

新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い(ひょっとしたら)一躍脚光を浴びている(かもしれない)求職者支援制度について手元にある資料とネットを使ってまとめておきます。

 

  概要

求職者支援制度とは、一行でまとめるなら、「雇用保険を受給できない離職者の方が、一定の要件を満たせば、月10万円の給付金を受けながら、受講料無料の職業訓練に通って就職を目指せる制度」です。

正直この一行だけ押さえておけば充分にも思えますが、成立過程やら今後の見通しやら気になりましたので、私なりに調べてみました。

 

  年表

2008年 リーマンショック

2009年 緊急人材育成支援事業

2011年 求職者支援制度

2020年 新型コロナウイルス感染症

2021年 求職者支援制度の特例措置

 

  経緯

年表にありますとおり、2008年のリーマンショック後の不況対策の1つとして、「緊急人材育成支援事業」が2009年から時限措置として行われてきました。「緊急人材育成支援事業」も現在の求職者支援制度とほぼ同じ内容です。つまり、当初から対象は「雇用保険を受給できない離職者の方」でした。

なぜ「雇用保険を受給できない離職者の方」が対象なのか。

当時も今も雇用保険は受給要件を満たさないと受けられず、また、受給できる日数にも上限があります。リーマンショック後の不況下では雇用保険を受給できない方——非正規労働者であるために雇用保険適用対象外だったり、学校卒業後就職できなかったりした方——が大量におり、また、雇用保険を受給できたとしても失業が長期化する中で給付日数を使い果たしてしまった方もいました。

それなら生活保護があるのではないかと思われるかもしれません。しかし、生活保護は、生活保護法第4条にあるとおり、「生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われ」ます。つまり、親類やら他の制度やらを全て利用してもなお最低限度の生活を維持できなくなって初めて使えるということです。要は万策尽きないと使えません。「最後のセーフティーネット」と言われる所以です。また、当時は生活困窮者自立支援法も成立していませんでした。

そこで、緊急人材育成支援事業によって、雇用保険を受給できない離職者の方に訓練を受けていただくことで自立=就職に繋げようということになりました。

その後、2011年に緊急人材育成支援事業は時限措置から恒久的な制度に発展しました。それが求職者支援制度です。先述のとおり、雇用保険生活保護の間の制度ですので、「第二のセーフティーネット」とも呼ばれます。

そして2020年から新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっており、その中で求職者支援制度の特例措置が今年(2021年)から設けられることになりました。特例措置は、ざっくり言えば、今般の事情を踏まえて、月10万円の給付金の受給要件を緩和し、訓練コースも拡充しますという内容です。

 

  現行

求職者支援制度のご案内 |厚生労働省

上のリンクをご覧いただければ現行の求職者支援制度が理解できます。新たな雇用・訓練パッケージが出されたからか、以前よりもページが充実している気がします。

概要(「雇用保険を受給できない離職者の方が、一定の要件を満たせば、月10万円の給付金を受けながら、受講料無料の職業訓練に通って就職を目指せる制度」)では省いていたところを補うと、

  • 雇用保険を受給できない離職者の方→自営業をされていたり雇用保険に入らないようなお仕事をされている方も対象になりえます。あくまで「なりえる」なので、仕事の都合で訓練に毎日通えないとか、給付金の受給要件を満たしていないとか、そういうことがあれば対象にならないこともあるでしょう。
  • 一定の要件→「雇用保険生活保護の間の制度」と前述しましたとおり、月10万円の給付金を受けられる要件も雇用保険生活保護の中間のようなものになっています。詳述はしませんが、訓練に毎日通って就職に繋げなければいけないあたりは雇用保険的、収入や資産の要件があるのは生活保護的と言えるでしょう。
  • 月10万円の給付金→正式名称は「職業訓練受講給付金」で、正確には「訓練受講手当」「通所手当」「寄宿手当」の3つから構成されています。「訓練受講手当」が月10万円の給付金のことなので、実は「通所手当」=交通費や「寄宿手当」=家族と別居して寄宿する場合の費用も要件を満たせば出るということですね。
  • 受講料無料の職業訓練→教材費等は有料なので完全無料ではありません。求職者支援制度のページでは職業訓練の中でも求職者支援訓練が前面に押し出されていますが、公共職業訓練も受けられます。いきなり求職者支援訓練とか公共職業訓練とか言ってしまいましたが、そのあたりについての細かいことはこちらをご覧ください。実は職業訓練にもハロートレーニングという愛称があるのですね。
  • 就職を目指せる→訓練を通じて資格を取ったりスキルを身につけたりすることで就職に繋げられるだけでなく、訓練実施施設やハローワークからの就職支援もあります。

 

  今後

先ほどしれっと触れました新たな雇用・訓練パッケージによれば、職業訓練受講者数を求職者支援訓練については2倍以上、公共職業訓練については約1.5倍に拡大するとなっています。その中で求職者支援制度を使われる方も増えるでしょう。今回の特例措置は令和3年9月30日までとなっていますが、利用者が増える中でまた変更もあるかもしれません。

あとは財源についても気になるところです。実は雇用保険法第66条第68条を見ると、雇用保険の保険料と国庫で求職者支援制度の費用を賄うことになっています。しかし、先述のとおり、求職者支援制度の対象は雇用保険を受給できない方です。つまり、身も蓋もない言い方をすれば雇用保険には関係ない方です。それなのに雇用保険料で一部を賄っているということになります。好景気で失業者の方が少ない時には余裕があったかもしれませんが、現今の状況ではこのまま続けていくのは厳しいのではと思わなくもありません。

 

  参考文献

よくわかる社会保障法 第2版

よくわかる社会保障法 第2版

 

対話形式で読みやすいです。しかし、私の手元にある他の本では、大部であっても求職者支援制度の財源について事実のみの記述が殆どである中、こちらの本では「立法時は一般財源(税)による事業とする意見も有力でした」(p.203)と言及されていて感心しました。

 

残念ながら私の手元にあるのは第14版です。求職者支援制度についての記述は第14版だとかなりあっさりしていますが、第18版は今年に入って出たようですからもう少し充実しているのでしょうか。 

 

 

社会保障法 第7版 (有斐閣アルマ > Specialized)

社会保障法 第7版 (有斐閣アルマ > Specialized)

 

こちらも求職者支援制度の記述はあっさりしています。 ただしISSUEの項目で生活困窮者自立支援法と生活保護に絡めて論じている箇所は非常に参考になります(pp370-371)。

 

 

社会保障法

社会保障法

 

私の手元にある社会保障法の文献の中で唯一求職者支援制度に3ページ割いています(pp.455-457)。ちなみにこちらでも財源に対する批判について触れられています(p.455)。

 

労働法 (法律学講座双書)

労働法 (法律学講座双書)

 

またしても残念ながら私の手元にあるのは第11版です。 『はじめての社会保障』はまだしも、『労働法』は5000円以上する書籍なので研究者でもない身の上としては再購入は厳しいです。今は働き方改革の影響で労働法は変動が激しく、また新しい版が出ないとも限らないので様子見ですね。

 

詳解 労働法

詳解 労働法

 

求職者支援制度についての記述は、社会保障法の文献のようにページ数が少ないわけではないのですが、少し淡白に感じます。法に基づいて淡々と説明していて、他の文献のように今後の課題について意見を述べたり訓練の実施状況について言及したりといったサービス(?)はありません。

 

  所感

割愛した部分も少なからずあったにもかかわらず、この文字数となって驚嘆の念を禁じ得ません。

雇用保険生活保護の狭間の制度ということもあり、もう少し雇用保険法生活保護法、それから生活困窮者自立支援法についても学んだ方がより理解が深まると思いました。研究者でもない割には手元に文献がそれなりにあるので、また時間があったらまとめていきたいですね。ただ雇用保険法生活保護法・生活困窮者自立支援法(この2つはだいたいセットで論じられます)は、求職者支援制度と比べて、どの文献でも膨大なページ数を割かれているため、かなりテーマを絞らないとまとめられる気がしません。時間のある時にパラパラ比較しながら読んで、気になった点があればまとめるって感じでしょうか。

しかし文献をめくっていると日本の社会保障の充実にはめまいがします。あまりにも充実していて支援を提供する側も受ける側も何が何だか分からなくなるのではと思わずにはいられません。

とはいえ、この情勢を受けて生活を支えるための支援厚生労働省によってまとめられたのはとてもよいことだと思います。

所感だから適当に書いてもいいかと思っていたら着地点を見失いました。とりあえず今後もボチボチ勉強していきます。